HOME > 感染管理関連情報 > 対策へのファーストステップ 鈴木治仁(すずきはるひと)氏に聞く(東京都開業)
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感染管理関連情報

対策へのファーストステップ

鈴木治仁(すずきはるひと)氏(東京都開業)

前の客が使ったナイフとフォークを、目の前でアルコールで拭き取って出されるレストランにあなたは通うだろうか。そのレストランのような状態に気づかずに、日常の臨床に取り組んでいるのが歯科界の現状だと、院内感染対策に取り組む多くの歯科医師が指摘している。一方で、コスト面の問題や科学的・法的根拠のあいまいさから対策の一歩を踏み出せない歯科医師も多いという。東京HIVデンタルネットワーク代表を務める鈴木治仁氏(東京都開業)は、「院内感染対策の必要性を認識するきっかけが大切」と訴える。取り組もうとすれば際限がないと言われる院内感染対策について、第一歩を踏み出すためにはどうすればよいかを同氏に聞いた。



感染リスクを認識しコストを抑える工夫を

──── 読売新聞でタービンヘッドを患者ごとに交換している歯科医師がわずか3割と報じられました。この現状をどう捉えていますか。

鈴木 これまで行われてきた歯科医療を考えると、現在社会的に求められる院内感染対策と感覚・意識にズレが生じているのではないでしょうか。比較的若い先生は教育を受けており、院内感染対策への意識が高いというよりも常識と捉えている傾向にあると思います。しかし、私が学生のころはグローブもつけない時代でしたし、無数の菌が存在する口腔内で外科的処置をして、処置後に抗菌剤を投与するのが常の歯科治療に携わる中で、衛生観念が麻痺していた面は否めないと感じています。

グローブやマスク、ゴーグルをつけなければ、当然、患者さんから術者への感染リスクは高まりますし、患者さんに使う器具を滅菌しなければ、患者さんの間での感染は避けられないでしょう。そういったリスクを意識していない、もしくは「このくらい大丈夫だろう」と思考停止してしまっているところに問題があるのだと思います。

──── 院内感染対策を意識したきっかけはあるのですか。

鈴木 認識を改めたのはエイズ患者の治療をするようになってからです。必然的に今まで教わってきたものを見直さなくてはならないと思いました。私やスタッフの身を守り、交差感染を防止するのはもちろんですが、免疫不全に陥った患者さんに万が一、肝炎でも感染させたら死に直結します。感染は絶対に避けなければなりません。

残念ですが、エイズ患者を受け入れるという歯科医師はわずか3割程度という調査結果があり、受け入れない理由の一つとして、院内感染対策に自信がないという回答があるのも事実です。

しかし、受け入れていない歯科医院にエイズ患者やHIV感染者が受診していないという保証はどこにもありません。

そういった意味で、誰が感染者であっても問題のない診療体制(スタンダードプリコーション)は、全ての歯科医院に求められています。

──── コスト面で対策を講じられないという声も多く聞くのですが。

鈴木 院内感染対策に取り組もうとすれば、際限がなく、初めから完璧なものをイメージして、ハードルが高いと感じてしまう人も多いのではないでしょうか。

私自身もまだまだやりたい対策や考えなくてはいけない部分がたくさんあります。一気に対策をするのではなく、できるところから徐々に着手する姿勢が重要だと思います。

極端に言えば、コップやエプロン、グローブ、マスクだけでなく、ミラーやピンセット、探針、印象トレーなどの器具はディスポーザブルの製品があり、患者さんごとに捨てていればより安全な院内感染対策になるでしょう。しかし、それでは保険点数の中では採算があわなくなります。なので使い捨てずに滅菌をするのです。

タービンヘッドに関して言えば、もちろん患者さんごとにオートクレーブにかければ、内部が痛みやすくなります。耐久性を試してみると、3カ月ほどで内部の修理が必要となり、1本当たり3万円ほどの出費がかかりました。10本あったら確かに大変な経費で、経営的に難しいという歯科医院があってもおかしくないとは思います。しかし、滅菌しなければ感染リスクが生じるのです。そこはコストと天秤にかけられる問題ではないのではないでしょうか。

私はある時期から、オイルライザーを導入して、オートクレーブと使い分けています。30万〜80万円するオートクレーブに対して十数万円で購入できますし、オイルを使用しているので、タービンの傷みもあまりないと感じています。個人的には、オートクレーブでの滅菌かオイルライザーでの殺菌処理かは、天秤にかけられる範疇だと考えています。

──── オートクレーブとオイルライザーでは効果に差はあるのですか。

鈴木 滅菌に関して言えばオートクレーブの方が優れていると思います。

院内感染対策が進まない原因の一つに、滅菌に関する科学的根拠が脆弱という面があるのではないでしょうか。厚労省の指針を診ても、推奨はしていても絶対にすべきとは書いていません。もちろん安易に線引きすべきものではないですし、グレーゾーンがないと現場が対応できない側面は否めないですが、現状では歯科医師の想像力、良心に委ねられているにすぎない状態です。

平成19年に原則義務化になった院内感染対策でも、対策マニュアルを作れという指示はありましたが、設備などの規定はありませんでした。

世代によっては、煮沸で十分という先生もいるでしょうし、アルコールで拭くだけで大丈夫と思っている先生もいるということです。

煮沸はわかりませんが、タービンヘッド内は拭くだけでは吸い込んだ血液や唾液は完璧には落とせないでしょう。

──── 読売新聞の報道後、タービンを何本持っていれば良いかという声も多く聞くのですが。

鈴木 それは診療体制と滅菌器具によって異なるので一概には言えません。

オートクレーブで滅菌に1時間ほど必要な場合、1時間に診る患者さんの数は最低限必要だと思います。

私の場合は、1時間に3人程度を診ており、オイルライザーで殺菌処理と冷却、使用準備に約20分の時間を要するので、極端に言えば3本で大丈夫ですが、1日6本を使って診療しています。



スタッフとの情報共有も大切

──── 徐々に対策をしていく必要性があるとのことですが、実際にどこから着手すればよいでしょうか。

鈴木 まずは患者さんに直接使う器具の滅菌についての概念は優先的に持たなくてはいけないと思います。

グローブもエプロン、マスクの交換もそうです。グローブも本当に安いものが出てきていますので、患者さんごとに使い捨てるのもそれほど負担にならないと思います。安いものはピンホールがあるとの指摘がありますが、気になるようなら二重にして使えば問題はないですし、2倍にしてもそれほどのコストにはなりません。

対策の必要性を感じれば感じるほど、費用の問題がついて回ります。しかし、正規品のカバーの代わりにラップを使うなど、目的が達成されるなら代用品を積極的に用いてコストを抑制する工夫ができると思います。

私自身も今後、エアロゾルやウォーターラインなど室内環境をどう整備していくか課題があると感じています。先進的な先生がやっている取り組みをまねするのではなく、まずは自分の診療所にどんな対策が必要で、どのような工夫(コスト削減)ができるかを考えることが根本的な問題解決につながるのではないでしょうか。

また、スタッフに対し「感染症の患者の治療後にあなたが治療を受けても不安はない」と思える感染対策を共に考えよう、というスタンスで全スタッフと意識を共有するのも良いと思います。

『日本歯科新聞』2014年6月24日付、第6面-第7面。


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